2010-09-23 Thu 17:49
大雨が降って、秋になった。
朝、雨は私が眠っている横で長い間降り続けていた。 悪い夢まで消し去るような大きな音。 私は眠りながら雨を思い浮かべた。 道路も木の幹も雲の色も、映る色すべてが濃ゆいはず。 足元の水たまり、ふと見た先にしたたる雫、見上げれば落ちてくる雨と涙。 雨と涙が顔を縦に流れた時、秋の風がぶわっと横に抜けた。 秋は、笑いながら私の横を通り抜けてゆくんだ。 「あはははは」、どこかの部室から聞こえてきた笑い声。 その笑い声は、昔私が大好きだったあの子の笑い声にそっくりだった。 あの子の笑い声は高くてくっきりしていて、でもどこかへ抜けていく。 秋は、そんなあの子の笑い声と重なる。 そして、秋の風が私の横を通り抜けるたびに、私はあの子を思い出す。 「元気にしているのかな」 ふと、もう何年も会っていないあの子のことを考えてみる。 あの子だけじゃなくて、あの子のこともあの子のこともあの子のことも。 さつまいもを掘るみたいに次々に思い起こす。 軍手をはめて、長靴を履いて、それでも泥だらけになりながら、重くて痛い想い出を引っこ抜く。 途中、腰が痛くなって、しゃがみこんでしまう。 くたびれ果てた私の目の前には頑張って掘ったさつまいも。 小さくて細いものもあれば、大きくて丸々と太いものもある。 まだ洗えていないから、どれも土がついたまま。 でも、土の下にはきれいな赤紫色が見えている。 さつまいもの色も赤ワインの色も、色で表せば赤紫。 同じ色だけれど、全然違う二色。 さつまいもの色はワインの色と比べるとほっこりしているような気がする。 外見も、ざっくりと包丁を入れた断片も。 それに、色だけではなく、食べた感触もほっこりしているんだ。 しかも、茹でても、焼いても。 どこから見ても、どこを切ってもほっこりした色を覗かせ、茹でても、焼いてもほっこりした感触を残すさつまいも。 私はしゃがみこみながら、泣く。 いつから秋とさつまいもと想い出がリンクしたのかわからない。 ただ、秋にはあの頃の想い出がたくさん詰まっているんだ。 失いたくなかったあの頃。もう二度と戻ってこないあの頃。あの人と別れた季節。 私はいつも泣いてばかりいた。 夕方、目を覚ました時、雨はもう横にいなかった。 涼しい風がさらりと吹いていて肌寒かった。 時計を見て、最近睡眠時間がとても長いことに恐怖を覚えて更に寒気が増した。 まだ、眠い。まだ、寝たい。でも、喉が乾いた。 私はタオルケットをかぶったまま、のそのそと台所へ向かい冷蔵庫を開ける。 開けた瞬間冷たい空気が顔を直撃し、ここでもヒヤッとする。なんだか、床まで冷たい気がする。 温かいミネストローネが飲みたいな、そう思いながら昨日買った梨とレモンのジュースを飲む。 冷たくて、レモンの味ばかりして、また寒くなる。 秋は、こんなにも寒かったけ。 すっかり乾いた道路を見ながら思う。 葉っぱはさわさわと軽く揺れている。雲も白く細く流れている。 |
2010-09-03 Fri 15:23
夏の終わり。
晴れ渡る広い空に大きな白い雲。 けれど、すこし向こうに立ちこめている黒い塊。 それはすこしずつ正体を匂わせながら静かに近付いてくる。 そして、ポツポツポツ。 三回ノックをしたあとに、突然大きく扉を開き大粒の滴を降り落とし始める。 走って家へと戻るわたしとあの子。 急な坂を必死に駆け上る。 なんでかわからないけれど、二人とも笑っていて楽しかった。 前を走るあの子を見ながら思った。 この子も年を、とったんだなって。 わたしも、年をとったんだろうなって。 二人とも、年はとったけれど、 まだまだ華麗な走りっぷりと靡くゴールドの毛並み。 まだまだ捨てたものじゃない、見かけによらない速い走り。 家に着いて、濡れたあの子をバスタオルで拭くふりをして強く抱きしめる。 ひさしぶりだったおさんぽ。 せっかくのランデブーだったのにね。 夕立ちに邪魔されちゃったね。 それでも、あの子はとても嬉しそうに笑っていて、すこし悲しかった。 もっと、余裕とか時間とか、やさしさ、とか、作り出せますように。 抱きしめながら、小さく決意する。 外では、まだ大きな雨の音がしている。 夏は、あれだけ毎日晴れ続けていたくせに、どうして最後になって雨を降らすのかな。 後悔、したのかな。後悔、したくないのかな。 だから、最後に泣いて別れを告げるの? 夏が終わってしまう合図を、今年もすこしせつなくなりながら見つめる。 秋がそばにいる気配をすこしせつなくなりながら迎える。 |
| ずっと近くに |
|