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神に祈った事それは...早くあなたのお気に召される様に
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頭の中で降り続ける雨
2010-05-24 Mon 23:18
ずっと降っていた雨が止んだんだな。
クランベリージュースが飲みたいな。
誰にも真似できない。レモンにも、グレープフルーツにも、カシスにも、ブルーベリーにも。
あの人が出してくれたクランベリージュース。
とってもとっても美味しくて、「あたし、この人のこと好きだな」なんて思いながら飲んでいた。
いったいあれはどこのブランドのものだったのかな。クランベリージュースだなんて洒落た飲み物は、あのとき初めて口にした。わたしはその鮮やかな赤みがかった紫色に圧倒されていて、この先この飲み物が自分に関わることはないだろうと思っていたから、どこのものかなんて訊こうとすらしていなかった。
電気のついていない、暗いキッチン。冷蔵庫からなにかが取り出され、ガラスのコップに注がれる音。
もう一度、あの場所に行けたらな。窓の外、濡れたアスファルトを見つめながら、あの人の家に行くまでの景色を思い出す。
はじめて入ったあの人の家の中。わたしとあの人、二人きり。わたしはすこし緊張して、背中をこわばらせていた。
そういえば、あの日も雨が降っていた。

「普段は、なにを食べているの?」
あの人とは変な話ばかりしていた。
あの人との会話は、ふつうであればあるほど違和感を覚える。
「納豆とかお豆腐とか、ゆでたまごとか、です」
わたしはすこし恥ずかしがりながら答えたのに、あの人は「そうよね。ひとりだと簡単に済ませてしまうわよね」なんて涼しげに答えた。「わたしと変わらないわ」、と。
あのときも「やっぱりこの人のこと好きだな」、そう思った。

あの人はすこし淋しい人で、でもその淋しさをわたしに隠さない、そんな人だった。
すごくお金持ちで、ずっとひとりで家にいて、音を立てずに静かに暮らしている。
そのことがあの人を淋しくさせていたのだけれど、その淋しさから生まれている密やかさがわたしの目にあの人を綺麗に映し出させていた。
ほかの人にはその淋しさを見せないところが、なおさらわたしには綺麗に見えた。
そして、あの人はわたしを娘のように可愛がってくれていた。わたしはあの人に可愛がられることが嬉しくて仕方なかった。

あの頃のわたしとあの人。
二人とも、すこし淋しかったんだ。
二人とも、無言でその淋しさを滲ませていたんだ。


雨の上がった、帰り道。濡れたアスファルトに涙をぼとぼとこぼしながら家に帰った。

「なんで、こんなものを出しているんだ」
あの人は責められて黙った。わたしはあの人をかばうことが出来ず、恐怖でぴたりと動きを止めてしまうしかなかった。
細長いガラスのコップ。すこし残ったままのクランベリージュース。
ぜんぶ、飲みたかったな。
鮮やかな赤みがかった紫色。濡れたアスファルト。あの人の淋しい空気。
今も、ずっと頭の中に焼きついたまま。まるで、ずっと降り続けている雨みたいに。

ずっと降り続けていた雨。いつのまにか、止んでいた。
それなのに、まだ音が聞こえてくるみたいだな。

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ちいさな手
2010-05-23 Sun 03:40
「せんせいの手、つめたい」

子どもははしゃぎながら、嬉しそうにわたしの手を握る。
ちいさくて、あつい手。
子どもは大人よりも体温が高い。いつでも熱帯びている。
わたしは大人よりも体温が低い。いつでもぴたっとはりつく。

いつも、すこしドキッとする。自分の冷たさに気付かされて。
いつも、すこし泣きそうになる。熱で溶けてゆく氷から、じんわりとしたたる水滴のような気持ちになって。
いつも、すこし泣きそうになるのを押さえ込むのと同時に、ちいさくてあつい手をぎゅっと握る。

このちいさな手を離す日に、わたしよりおおきな手になってくれたらいいのにな。
ちいさな手、離したくなくて、そう願う。
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告白
2010-05-12 Wed 02:40

湊かなえさんの『告白』を読みました。
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